情熱のメロディ
 「責めているわけじゃない。力を抜いていつも通りに弾けばいい。尤も……アリア、お前の心に影を落としているのは、情けない俺たちの息子のようだがな」

 ヴォルフは眉根を寄せて、視線を少し遠くへと流した。アリアがそれを追うと、カイは会場の隅で貴族の女性と談笑していた。

 ドクンと嫌な音がアリアの耳を打ち、自分の心に渦巻く黒い感情にアリアは慌ててカイから目を逸らした。

 「アリア……覚えている?私が貴女の秘密を聞きたいといったこと」
 「……はい。でも、それにはお答えできないと思います」

 カイはアリアだけに優しいわけじゃない。カイと2人で過ごした日々がそう錯覚させただけで、カイは王子としてそう振舞っていただけだ。

 「そう……」

 フローラは肩を落とし、ヴォルフはそんなフローラの肩を引き寄せた。

 「アリア。お前ができないと言うのなら、無理にとは言わない。だが、作曲家の想いを再現するだけなら誰にでもできると思え。物語を朗読することなど文字が読めればそう難しいことではない。楽譜が読める者が曲を弾くこともな。演奏家が存在する意味は、それ以上があるからだ」

 演奏家は与えられた曲を弾くだけ――簡単に思えて、そこにどれだけ自分自身の想いを込められるかという課題がいつも纏わりつく。作曲家の想いと演奏家の解釈……音楽は流動的で、その形を自由に変える。
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