情熱のメロディ
 ボレル家は古くから王家に遣える上流貴族だ。現在の当主は文化省に勤めていたはずだから、おそらくその繋がりもあってカイとの縁談が持ち上がったのだろう。

 ボレル家との縁談はどこまで進んでいるのだろう。

 もう……アリアの気持ちは伝えられないのだろうか。ミュラーのやるせない気持ちを思うと浮かんでくる涙を散らしたくて、アリアは何度も瞬きをする。それでも溢れる涙を誤魔化せず、アリアは足早に広間を出た。

 賑やかな広間とは違って、廊下は静まり返り、空気も冷たい気がした。

 涙を拭いながらどこへともわからず、ただ歩く。真っ直ぐ廊下を進み、扉が開いている場所へたどり着いて足を止めると、そこは中庭で……アリアはマーガレットの香りに引き寄せられるようにふらふらと足を踏み入れた。

 「アリア……?」

 カサリ、と微かな足音に振り返ったのはカイだった。いつのまにか広間を抜け出していたらしく、花壇の前に立っている。

 「また、泣いて……」
 
 カイはアリアに近づいてアリアの涙を拭ってくれる。けれど、カイに会ったことで更に涙腺が緩くなったアリアの涙は止まらず、カイはアリアを力強く引き寄せて抱きしめた。

 カイの胸に頬を当てて彼の鼓動を聴く。温かな温度、少し早い鼓動、強くアリアを抱きしめる腕……すべてがアリアを求めてくれているはずなのに、どうして?

 「婚約、なさるのですか?」

 アリアが問うと、カイの腕に更に力がこもり、息ができないほどになる。しばらくそのまま抱き合い、アリアのすすり泣く声が夜風に攫われていく。
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