情熱のメロディ

(3)

 「カイ様――」
 
 至近距離で見つめあいながら、揺れる瞳にアリアは愛しい王子の名を呼んだ。

 だが、アリアの声と同時にカイの瞳がハッとして大きく揺れた。そして、ドレスの布に掛かっていた指の動きがピタリと止まり、カイはアリアの腕を引く。身体を起こすとアリアから視線を外して「ごめん」と呟いた。
 
 「どうかしている……」

 カイが片手で顔を覆い、自身を責めるような声を出した。
 
 「覚悟なんて全然できていないくせに……君に近づくべきじゃなかった」

 カイの後悔が滲み出る言葉に、アリアの目尻からまた涙が一筋頬を伝った。

 カイがアリアを選んでくれて……たとえそれが”女性”としてではなくても、音楽家として認められただけでも嬉しかったのに。

 でも今は、カイと同じ――こんなに苦しくなるのなら、欲張らずに憧れのままでいれば良かったと時折顔を出す後悔までカイと同じだなんて皮肉なものだ。それでも諦められずに縋るアリアは、カイの目にどう映っているだろう。

 「どうして……?どうして、ダメなのですか?」

 アリアだって上流階級の貴族の家の娘だ。シュレマー家は昔から王国議会での中立の立場を貫いている。フラメ王国の議会には穏健派と強硬派の2派があって、どちらかが王家との繋がりを持つとなると事は複雑だけれど、その点アリアは問題ないと言える。

 何より、カイはもうアリアの気持ちに気づいている。カイだって……それなのに、どうしてアリアを拒絶するのだろう。どうして、夢を叶えてはいけないのだろう。
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