情熱のメロディ
 「君が……お母様に、似ているから……」

 カイは芝生に座り込んだまま、諦めを浮かべた笑顔でアリアを見る。

 「ときどき思うんだ。お母様がお父様に出会っていなかったら……お母様はピアニストとして名を馳せたんだろうって。お父様はそんなお母様にとても情熱的なアプローチをして、2人は結ばれたけれど……」

 宮廷ピアニストになる前は城下町のピアノ講師だったというフローラを、ヴォルフが見初めて2人は結婚した。一般人だったフローラは王家に入り、愛する人との永遠を得るのと同時に自由をなくした。

 フローラがピアノに触れる時間は確実に減り、今や“王妃”として認識されることが多くなった。彼女の音楽のキャリアはもう随分前から止まってしまっている。

 「王妃とか、王子とか……何でもできるように思えて、実際には制限がたくさんある」

 公務はもちろん、婚約や世継ぎの話まで……口出しをされることは少なくない。
 
 カイはアリアの頬にそっと手を添えた。

 「君は……自由に生きるべきだ」

 いつかと同じ台詞――あのときは痛くなかったのに、こんなにも心に突き刺さるのはアリアの気持ちが大きくなった証拠だろう。

 「王家に縛り付けたくない。好きなときに好きなようにバイオリンを弾く。そんな簡単なことさえ難しくなるんだ。君の音楽はこれからもっと世界に響いていく。君の可能性を……僕のわがままでは潰せない。僕は君を幸せにしてあげられない」
 「っ、そんなこと――」
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