情熱のメロディ
 アリアの見た夢は、カイとの真実の愛だった。たとえカイがそれを受け止めてくれなくても……アリアがカイに恋した現実は、アリアの中に永遠に残るだろう。

 アリアは真っ直ぐ前を見据えて舞台へと歩き出す。

 もう迷わない。

 アリアが音楽家として歩んできた道は変わらない。これから先、どんなことがあっても、アリアが積み重ねてきたものが消えてしまうわけではないのだ。

 音楽が変幻自在のものであるように、人生だって良くも悪くも驚きばかりだ。アリアが今日この舞台に立つことだって、思いがけない幸運だった。

 自分の予想通りになることの方が少ないまま流れていく――でも、音楽は自身の鏡だ。自分を表現するための真実。

 アリアは舞台の中央に立ち、深呼吸をする。少し遅れて出てきたカイもアリアから少し離れた位置に立ち、2人は客席に向かってお辞儀をした。

 大きな拍手が響き、それが静まる頃……アリアはカイへと視線を向ける。

 まだ1音さえ奏でていないのに、とてもすっきりとした気持ちだ。誰のために弾くのかを決めたから――自分の音楽がクリアになったから。

 アリアは自分でも知らぬ間に頬を緩め、カイに笑いかけていた。カイはそれを、目を見開いて見つめ返す。少し潤んで見える赤い瞳は2人に注がれるライトのせいかもしれないけれど……アリアの覚悟がカイに伝わっていればいい。

 アリアは小さく頷き、カイもその合図でバイオリンを構え直す。そして、アリアとカイが息を同時に吸い込み、吐き出す瞬間に始まる夢の時間――…
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