情熱のメロディ

　「カイ様、アリア様、本日の演奏はとても素敵でしたわ」

　年配の婦人が瞳を潤ませて一言発すると、周りの人々も頷き同調する。

　「ありがとうございます。皆さんの心に響く音楽を奏でられたこと、誇りに思っております」

　アリアが丁寧に言葉を返すと、婦人の夫らしき男性が咳払いをした。

　「それで、お２人のご婚約はいつに？」
　「え……？」

　思いがけない質問にアリアは目を見開く。

　「まぁ、貴方、そんな失礼な聞き方はないのではなくて？こういうことは、カイ様からのお言葉があるまで見守るべきことでしょう」
　「しかし、これは議会でも度々議論を重ねてきたことであって――」
　「もう、貴方は黙っていてください。申し訳ありません、カイ様、アリア様」

　パシッと腕を叩かれた男性はムッとした表情を浮かべたものの、妻の態度に押され気味で口を噤む。

　「この人、カイ様が音楽祭に思い入れがあるようだと知って、やきもきしておりましたの」
　「まったく、カイ様も初めからシュレマー家との縁談を進めたいとおっしゃれば良いものを、お言葉を濁すから」

　すると、また婦人の後ろから髭を生やした老人がため息をつきながら話し始める。

　「バルツァー議事、それは――」

　カイが口を挟もうとすると、今度はまた違う男性が「まぁまぁ」と言って笑う。

　「こういうサプライズもありではないですか？おかげで私たちは最高の演奏が聴けた。フローラ様がヴォルフ様への想いを演奏したときと一緒ですなぁ」
　「本当に、とても情熱的な夢でした！」

　すると、周りの人々がカイとアリアの演奏についての感想を捲くし立て始めた。