君が笑うなら
「お願いします」
「車がいいよね?服も運ばなきゃいけないし」
「あの、部屋に入りきらないんですが」
「うーん、じゃあ倉庫があるからあげる。……菜穂ちゃんの家の近くに、僕の家のがあるから、あげるよ」
「いいんですか?」
「うん。使ってないしね」
軽い口調で志和は言う。
「僕には、お金しかないから」
小さな声でつぶやいて、志和は満面の笑みを見せた。まるで、笑顔ですべてをごまかすかのように。
「じゃあ、帰ろうか」
「は、はい」
志和に手を差し出され、それを恐る恐る、握る。そのまま車に乗せられ、菜穂はため息をついた。高級車かと思ったら、意外と普通のタクシーだった。車に乗ることすら久しぶりだ。
学校へは徒歩だし、母親は車に乗れないし……最近乗ったのなんて学校の遠足で乗ったバスぐらいか。
それもいつだか定かじゃない。
「ここです」
マンションが見えてきたので、声を出して車を止める。
「また、会えるかな?」
「明日は日曜なんで、学校もないですし、新聞配達ぐらいです」
ほかにもバイトをしたいが、なかなか中学生を雇ってくれる場所はない。
知り合いのところでならできるが、何せ駅をまたいでしまうので、夏休みなどまとまった休みのときのみにしている。後は、母の名前でやる内職で稼いでいる。
「じゃあ、迎えに来るね」