君が笑うなら
玄関のチャイムが鳴り元気よく駆け出していく。志和が来ると知っているから、もうすでに身支度はできていた。
もらった服の中からお気に入りを選び出し、身だしなみも整えた。



「菜穂ちゃん、迎えに来たよ」

「おはようございます!」

「うん、おはよう」

にこにこ笑顔の志和が、花
束を持って立っていた。会話を軽く交わして、花瓶に花を生けてから外に出る。今も布団の中にいる母にメモを残して、どこへ言ったか聞かれることもない。今日もタクシーが家の前に止まっていたので、それに乗り込むよう志和がドアを開き、菜穂が先に乗り込む。


「今日はどこか行くんですか?」

「行きたいとこなんだけどねぇ、ああ、この前は写真を撮りに行ったよ。僕は花が好きでね、チューリップを撮りに」

柔らかな笑みを絶やさずに、志和は続ける。

「僕は、隠れていなければいけないから。……少し、遠くへ出かけてみようか?」

「志和さんにお任せします」



志和の笑みは困ったような顔に一瞬代わり、すぐに元に戻る。まるで笑うことしか知らないように。
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