君が笑うなら
重い発言に思わず息を呑む。そのまま困ったように視線を泳がせてから、菜穂は力なくじっと志和を見つめた。
人が死ぬという、その重さは創造できるものではなくて、もし菜穂が兄の立場ら、なるべく長く楽しく生きたい、迷惑を掛けたくないと思うだろうと思った。
「それに、お母様たちが愛してるのは、兄さんだから」
まぶたを伏せて、思うように指先を見る。そのまま志和は数分黙ると、顔を上げてにっこりと笑った。
「だからどうだって、話だよね」
そして菜穂は悟った。志和の笑顔は、自分を守るための仮面だと。心から作られた笑みではないということを。
心では、泣いたまま――笑っている。
「さあ、暗い話は切り上げて、何か楽しい話をしよう。外へは、うろつけないけど、広い庭ならある。遊ぶ道具だって、いっぱいある」
菜穂は、志和の笑顔を見ているのがつらかった。顔に張り付いたその氷の仮面を溶かしてしまいたかった。
「泣いて、いいんだよ」