君が笑うなら
強がりなのは、自分だけれど、それよりも、彼の背負ってるものほ人には言いづらく、とてもつらい事情だと思った。まだ、少ししか把握はしていないけれど。
「菜穂ちゃん……」
目を見開いて、信じられないものを見たように口を丸くあけて、志和は菜穂を見下げた。
自分を、受け入れている器を探してさまよっていた彼が、泣き出すのは時間はかからなかった。無言で涙を流し始めると、それを隠すように顔を手で覆うと、小さな声で畳み掛けるように言った。
「本当は、僕が、1番愛されたかった。兄さんがずるいと、思った。そんな自分を醜い、と思った。こんなドロドロとした感情が醜くて、恥ずかしく、いやな自分だと思った。……辛かった」
手の隙間から流れ落ちる涙が、真珠のようにきらめいて床に落ちた。志和は小さくのどをしゃくりあげると、「でも」と続けた。
「この感情を、誰かにわかってもらいたい、と思った。そんな自分をまた、ずうずうしいと思った」
「そんな事、ないと思う。私がすべてを支えるとか、そんなことは思わないけど、人間誰でもどろどろした部分があって当たり前だよ」