異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「洞窟の中に作らなかったんだな」
唐突に訊かれて一体何の事かと目を瞬いてると、視線で焚き火を示され、そのことかと納得がいく。
「焚き火のこと? なら、あんな密閉空間で火を焚くのは自殺行為でしょ。一酸化炭素中毒の他に、天然のガスで爆発したりする可能性だってあるんだから」
「……そうか」
バルドは短くそれだけ言うと、ドカッと座って麻布の袋を開きあたしに何かを投げて寄越す。
「えっ……わわ!」
ずいぶんと乱雑に投げてくれるから、キャッチし損ねそうになったじゃないのさ。慌てて数度持ち直し、はれ? と手にした物を見れば。それは、石で出来た腕輪?
あたしが持ってる勾玉と同じで、乳白色の石に緑色のまだら模様が入ってるけど。勾玉と違うことは、何やら紋様が刻まれてるところ。
これまた読めない文字だか記号……なんなんだろ?
「常に身につけておけ」
バルドはそれだけ言うと、麻布の中をいろいろと漁り始める。しばらくきょとんとしたあたしだけど、慌てて彼に返そうとした。
「ちょ、こんなのもらうわけにはいかないよ! もらう理由がないし。第一、今あたしは男装してるんだ」
「だから、なんだ?」
バルドはまたもばっさりとあたしの理由を切り捨てる。
「オレが身につけろと命じた。側仕えなら、それに素直に従え」