異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「これに、御上が宿ってる。そう言ったな」
「あ、うん……そうだよ」
あたしの言葉を肯定するかのように、勾玉が数度光を放つ。
「なるほど」
バルドは納得したのか木箱を手に取ると、そばにあたしのペンダントを置いた。
「しばらく借りる」
木箱を地面に置いてその前に座り込んだバルドは、木箱を留めてあった赤い紐を解いて蓋を開く。そこにあったのは巻物と、封筒のような上質の和紙。バルドは巻物を紐解き、慣れた様子で広げた。
一体、何が書かれているんだろう? 流麗な文字で書かれてるけど、あたしにはさっぱり読めない。
「……なるほど、確かに面白い」
バルドは顎に人差し指と親指を当てると、擦るように動かす。変なくせがあるみたいだな~とぼんやりと眺めていると、彼は肩越しにあたしを見た。
「これを参考に、明日から動く。今晩はしっかり休んでおけ」
そう言いながら立ち上がったバルドは、一冊の本をあたしに差し出す。なんだろう? と不思議に思えば、勉強しろとボソッと呟かれた。
「少なくとも、基本的な単語は理解出来るようにしておけ」
「え? う、うん……」
レヤーとロゼッタさんのところへ戻った時に、その本が基本的なストラトス語の学習本だと知った。
ストラトス語はディアン帝国の第一公用語。初等科の教育で使われるらしく、すごく少ない文字数だけど。あたしにはちんぷんかんぷん。
「ナゴム、ワタシ、オシエル。ワタシ、ナゴム、オシエテモラウヨ」
「う、うん。よろしく」
こうしてロゼッタさんと互いの言葉を教えあう時間を取るようになったけど。
バルドは少しだけでもあたしを気遣ってくれたんだな……とちょっぴり嬉しかった。