異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
ロゼッタさんはもともと基本的な単語が喋れたから、後は基礎をマスターするだけで驚くほど日本語が上達した。
対するあたしは単語を覚えるのに一杯一杯。最近は夜も明け方まで頑張って、睡眠時間は2時間くらいで寝不足。
だけどご飯作りはあたしの役割だから、早起きして何とか作ってる。水がある時は洗濯もしたり……家事は得意だから苦にはならないけど。
ロゼッタさんと言葉を教えあいながら水場に着く。幸いこの区域は井戸があって、桶2杯ぶんなら分けてもらえるんだ。
夕刻の井戸は水汲み待ちの行列ができてる。あたしとロゼッタさんが並んで待ってると、一人の老婦人が話しかけてきた。
早口であたしに向かってなにか言ってるけど、ちんぷんかんぷんですよ。時たま「湯」「食事」みたいな、知ってる単語があったけど。それだけじゃ何を言ってるやらわかりません。
ロゼッタさんがなぜか、眉を寄せて老婦人に何かを返す。赤い麻のワンピースを着た老婦人は、身ぶり手振りを大きくしてあたしに話しかけてくる。
「なごむ、お湯使いたい?」
ロゼッタさんが眉を寄せながら訊いてきた。え? まさか、お湯で体を洗えるの? 期待を持って彼女を見返した。
「体を洗えるの?」
コクリ、とロゼッタさんは頷く。
「満月な夜、女は穢れを落とす必要あるから、湯に体を浸す……て」