異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「あたたた……本気で打ち込むこと無いのに」
あたしはぶつぶつと文句を言いつつ、肩をさすりながらアラカ地区へ歩いていった。
今晩のバルドは、どうしてかいつも以上に真剣だった。気迫が違うって言うか……木刀で何度打ち込まれただろう。痣になってなきゃいいけど。
「これでも一応、年頃の女の子なんですけどね……」
虚しい独り言をぶちぶち言いながら歩くなんて、ちょいとアブナイ人だ。けど、いいんだ。今のあたしは一人きりだから。
ロゼッタさんがつかず離れずで護衛してくれてるみたいだから、本当の意味で一人じゃないけどね。
にしても、とあたしは月明かりの下で自分の格好を見下ろす。いつにも増して色気のない格好。綿でできた長袖のシャツに、長い革製のズボン。革のロングブーツサイズがぴったりだから、あたしに用意してくれたみたいだけど。バルドはなんで行くならこんな格好をしろ、って渡してきたんだろ?
「はぁ……意味かわんないな、あの人」
腰に提げた短剣はいつものだけど、バルドが念入りに手入れしてくれた。ベルトにある荷袋にも、いろいろと入れてたけど。いざというとき以外に開けるなと念押しされた。
いざというときって、なんだろう? ホントに肝心なことは教えてくれないんだから、とひとり頬を膨らませた。
(ま、いいや。久しぶりにお湯が使えるんだ。楽しみ!)
晴れきった沙漠の夜は放射冷却の影響で、急に気温が下がるから案外寒い。だから、冷えた体を暖められるのも嬉しい。