異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。



「さ、触らないで!」


彼の手を振り払いたいのに、身体が痺れて言うことをきかない。精一杯力を込めても、指先を動かすのがせいぜいで。彼の腕の中から睨み付けるしかできない。


「あ……あなたは……あ、あたしに嘘をついてた……皇子だって……どうして……あたしを……」

「たしかにわたくしはあなたを騙しました。しかし、それはやむなくです」


セリスはあたしの髪を飽きることなく撫でながら、訥々と自分の事情を語る。


「あなたを帝国の中枢に送る訳にはいかなかったからです。わたくしはディアン帝国皇子ではない。ですが、同等の立場でもあるのです」


そう話しながらも、セリスの指先があたしの髪から滑り落ち、頬を撫でた。


「こんな場所に傷が……わたくしがいなかったばかりに、申し訳ありません」

「謝らなくても、いいです。これはあたしが選んだ結果負った傷ですから」

「ですが、わたくしはあなたをお守りすると誓いました。これからはそのような真似はしなくともいいのです。何不自由ない生活をお約束致します。ですから、わたくしとともに……」


気のせいか、セリスの顔が近くなってる。耳に吐息を感じて、背中が粟立った。


頬から肌を伝う指先が、肩にたどり着く。「痛むでしょう」、と……そこに唇を落とした。


「や、やめて……!」


頭が真っ白になって、涙のせいか視界が滲む。


「泣かないでください。わたくしは、あなたにそんな顔をさせたい訳ではありません」

「なら、は……離して」

「いいえ、それはできません」


ギュッ、とより強い力で抱き寄せられた。


「あなたは、いずれわたくしの――」



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