異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「独りで、立て」
セリスの後ろから、バルドの声が響く。突き放したような冷たい声だけど、いつもと同じ。
「女だから、と甘えるな。自力で立とうとしないやつに用はない」
「……立てる、よ!」
バルドの冷静な物言いに腹が立ちながらも、あたしはセリス越しに彼を見据える。
あたしはセリスの方を見ることなく、浴槽の縁に手をかけると足に力を入れて立ち上がる。どうよ、と腰に手を当ててバルドを睨み付けてやった。
「ここであたしを放り出せると思っただろうけど、おあいにくさま。 あたしは自分からあなたに着いてくと決めたんだから、中途半端に投げ出すなんて。絶対に、嫌だからね!」
バルドが言っていたのは単に今の状態だけでなく、これからのあたしの姿勢。いい加減な気持ちなら、連れていかないと言われたようなものだ。
「自分で始めたことだから、あたしは石にかじりついてでも着いてくよ」
《石などマズイが》
「ヒスイ、茶々を入れるなら黙ってて」
あたしはヒスイをジロリと見遣ってから、お湯をかき分けてバルドのもとに歩み寄った。