異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
たぶん、きっと、セリスも解ってる。あたしが彼の誘いを断るってことは。
それでも、彼はあたしをまっすぐに見て案じてくれる。その言葉は、偽りのない心の底からのものだと思うんだ。
だから、あたしは彼の思いやりに本心で答えなきゃと感じた。軽く流したりスルーしちゃうとしたら、彼の気持ちを蔑(ないがし)ろにすることになるから。
あたしはバルドから離れると、セリスに少しだけ歩み寄る。そして、自分なりに微笑んでみせた。
「ありがとう、セリス。あたしを本気で心配してくれるのは嬉しい。……知り合いが誰もいない異世界に来て、不安でどうしようもない時。あなたの言葉がとても心強かった」
でもね、とあたしはありのままの気持ちを彼に伝える。両手を胸の前で組んで、そこに視線を落とした。
「でも……あたしは、ちゃんと向き合って欲しかった。嘘なんて言わずに、きちんと全部を話してくれていたら、あなたに着いていったかもしれない」
最初から、何もかも偽りだった。不安で仕方なかった時につかれた嘘は、大きな不信感に育つのに時間はかからない。
信頼関係を築くのは難しい。何年一緒にいても、たった不用意なひと言で崩れ去る時はあっという間だ。
それを、知らない世界で初対面からされてしまえば。後から信じてと言われたって、信じられない。なまじ信頼してしまった後の裏切りは、手痛い傷となって深く心に残ったんだ。
もっと楽観的だったりドライに割りきれたらよかったのに、と自分でも思うんだけれど。どうしてもできなかった。