異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。



「……まったく、母上のおっしゃる通りに。あなたの頑固さは相当ですね」


ほろ苦い微笑みを顔に張りつけたセリスは、思わせ振りな言葉を呟く。母上? なぜ、ここに彼の母親が出てくるんだろう。


「母上って……セリス、あなたのお母様? どうして、お母様の話が出てくるの」

「……あなたもご存知のはず、ですから」


含みを持たせた曖昧な返しをされ、知るためには彼に着いていくしかないのだと、言外に仄めかされた。


「……和さん、わたくしは少なくとも幼い頃からあなたを知っていました」

「え?」


セリスはその澄んだ蒼の瞳で、あたしをまっすぐに見る。何の邪心も迷いもない、すがすがしいまでの強い意志の光が宿ったそれは。あたしの心を揺さぶる。


「わたくしは簡単に諦めたりしません、和さん。あなたが巫女でなくとも、わたくしが近くにいて欲しいと願う――それは、決して叶わない想いでしょうか?」


ドキン、と心臓が跳ねた。熱を孕んだ瞳は、あたしをまっすぐ射抜いてきて。金縛りにあったように動けなくなる。


呼吸が苦しくて、ドキンドキンと鳴る胸を押さえながらうつむいた。


(だめだよ……そんな目で見ないで)


自分が、自分でなくなりそうで、怖い。流されまいと抗いたいのに、彼のもたらす熱があたしの思考を止める。なにも、考えられないよ。


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