異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
突然、グイッと肩を掴まれた。えっ? と戸惑ったあたしの目の前を、黒が支配する。
それが、バルドの背中なのだと理解するには頭が冷める時間が必要だった。
「“魅了”――卑怯な手段を使って人を使い、嬉しいか?」
「さあ。しかし、和さんには一切使用してはいませんが?」
バルドとセリスの会話がぼんやりとした頭に流れ込み、噛み砕いて理解するのに時間がかかった。
魅了? バルドはそう言った。もしかしなくても、魔法の一種。だとすれば、あの美女さん達が操られたのって。
「……あの女性達を使ったのは、その魔法をかけたからなんですか?」
「和さん」
なぜか、セリスは咎めるような声であたしに話す。
「あなたにとって、卑怯な手段なのでしょう。ですが、彼女達は自ら望んでかけられたのです。このアラカ地区は、傭兵の出身地として有名です。男性は常に不在で、女性や子どもや老人しかおらず、不安を持つ方々が多いのです。それを解消するために、わたくしは持てる力で協力をし彼女達の手助けをしたに過ぎません」
ろくに事情を知らないのに口を出すな、と言われたように感じた。たしかに、部外者であるあたしが狭い価値観や幼い正義感で口出しすべきじゃない。
「そうだね……ごめんなさい」
ふ、とセリスが小さく笑う気配が伝わってきた。
「やはり、あなたは素晴らしいひとです」
ざばり、とお湯が揺らめく。バルドが剣を持ち直したからだった。