異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「……気に入らない、という目をしてますね。バルド皇子」
セリスの挑発的な物言いに、バルドがどんな顔をしたのかわからない。彼が背に庇ってくれているから、セリスの表情(かお)も見えない。
「そんなに、彼女を手放したくはありませんか?」
セリスの挑発的な台詞が続くけど、バルドは何も答えない。だから、一方的なものと思ったのに。
「――アイカ、のことはもうあなたの中で決着は着いたのでしょうね?」
ピクリ、と。バルドの肩が跳ねた。セリスが、とある名前を出した瞬間に。
そして彼の背中が強ばり緊張したのだと、あたしにもハッキリと見えた。
(アイカ……?)
あたしには聞き覚えがない名前だけど、それを聞いたバルドは明らかに反応をしてた。女性らしい名前……もしかすると、バルドに関わる誰かのこと?
「……関係ない」
バルドはセリスの言葉を、バッサリと斬り捨てる。
「今は、きさまが邪魔だから斬る。それだけだ」
再び、緊張感が高まっていく。あたしが止めて収まったはずの殺気すら滲んできて。バルドが本気で剣を構えたのだと、彼の剣の弟子であるあたしにはわかった。
「……まったく、血の気が多いと血圧が上がりますよ」
セリスはあたしの短剣を手にして、「力づくでわかっていただくしかありませんね」と物騒なことをのたまう。
「バルド、やめて! セリスはケガを……」
既にセリスの手当ては終わってるけど、怪我人相手に本気で斬りにいくなんて正気じゃない。あたしは彼の腕にしがみついて、何とか止めようとしたけど。乱暴に突き倒されてお湯に溺れそうになった。
対峙した2人に近づこうとしても、結界でも張られてるのか歩くのもままならない。
そのまま、再び戦いが始まった……。