異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
《すとっぷ、じゃ》
今にもバルドとセリスの剣戟(けんげき)が始まるか、と思われた瞬間。間に割って入ったのがヒスイだった。
彼女はお湯の上に立ったまま、両手を突きだしバルドの刃を受けとめてる。相当な衝撃だっただろうに、ヒスイは涼しい顔でいる。
《バルドとやら、セリスというこの男を傷つけるでない。そなたが為すべきことは他にあるはずじゃぞ。感情の赴くままに剣を振るったとて、何も生み出さぬ》
え、ヒスイがセリスを庇った?
というか。
「ヒスイがまともなことを言った……」
あたしにとってはセリスが王子だった事実よりも、今の方が衝撃的です、はい。
《ナゴム、そなたは相変わらず無礼なやつじゃのう。わらわを尊ぶことも忘れておるぞ》
眉を寄せたヒスイは一瞬だけ不機嫌に見えたけど、次にはいつもの含み笑いを作った。
あ、良からぬことを企んでいるな……って。この1ヶ月散々振り回されてきた身からすれば、容易に予想できますよ。
「ちょっと、ヒスイ! あなたまたとんでもないこと考えてない?」
《とんでもないこと? 何のことじゃ?》
しらばっくれてくれますけど、あたしがどれだけ大変な目に遭ったか。ヒスイを小一時間問い詰めたくなった。
……で。
ザッ、とセリスがヒスイの前でいきなり跪いた。