異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「女神様、お会いできて光栄でございます。わたくしはセイレム王国第一王子、セリス・ド・セイレムでございます。以後、お見知りおきを」
セリスはそう挨拶すると、ヒスイに向かって深々と頭を下げる。
そりゃ、まあね。ヒスイは古代日本の格好してるし、透けてるし、浮いてるし、バルドの剣を平然と受けるような不思議な力はあるし。 誤解できる要素はたくさんあるけど。
「セリス、コレは女神様なんかじゃないよ。御上っていって、天界じゃ下っぱだってさ」
《これ、ナゴム! わらわを指さすなど無礼な。それに、コレとはなんじゃ、コレとは!》
肩を怒らせるヒスイはスルーして、あたしは浴槽から上がって一息着いた。さすがにお湯に浸かりすぎて逆上せそうですよ。
それより、とあたしはバルドの方を見る。一見十代の少女にしか見えないヒスイに剣を止められ、傷ついてるんじゃないかとちょっとだけ心配してたけど。剣はとっくに鞘に納められ、無関心な様子でヒスイを眺めてた。
「ば、バルド……大丈夫?」
「…………」
バルドに聞こえる位の大きさで声を掛けてみたけど、彼からは何の反応もない。けれど、あの殺気や緊張感がすっかり薄れていて、何とか戦いは回避できたと胸を撫で下ろす。
やっぱり、どんな理由であれ戦いなんて起きて欲しくない。特に、あたしと関わりを持った人たちなら尚更。傷ついて欲しくないし、血が流れるような不幸は止めたかった。