異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「巫女さま! ようこそ我がアランダム子爵家へ。ボクが次期当主のサリーダです」
フッ……とキザに髪をかきあげるのは、湯殿に入ってきた金髪の男性。黒いタキシードを着た白髪の老年男性を従えて、ビジューだらけのピンクい開襟シャツからのぞくのは、キラッキラのアクセサリー。生地全部にスパンコールのついたズボンなんて初めて見たよ。
たぶん、いいところのお坊ちゃんなんだと思いますけど。ショッキングピンクのシャツと紫のズボンって蛍光カラーをお召しになる、そのセンスがあたしにはわかりません。
しかもお坊ちゃんは何を勘違いしたか、ヒスイに向かって爽やかに笑い、歯をキラリ~ンときらめかせた。
「なんという美しさ! 女神もかくやという美麗さは、このボクの隣にいるにふさわしい」
「あの~……もしもし?」
「ああ、我が女神よ。ボクは君の僕(しもべ)となり、尽くすことをお許し下さるだろうか?」
サリーダとやらは片膝だけ床に着いて、右手を胸に当て左手を天に伸ばす。目の前であたしが手を振ってみても、まったく反応がない。何だかいろいろと酔ってらっしゃるみたいですが……。
「もしも~し? そのひと巫女じゃないんですけど」
「我が女神よ! ボクの美しさに……あが」
すこ~ん!
バルドの短剣の柄が顎に見事に命中したサリーダは、白目を剥いて倒れました。ぷかあとお湯に浮いてますが。うん、これは同情できないと思う。
だって、放っておけば一日中でも喋り続けそうだし。しかも、勘違いナルシーな歯が浮くセリフで。ガリガリ精神力が削られるから、マジで勘弁して欲しいよ。