異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
アランダム家の屋敷へ向かう馬車のなかで、あたしはふわふわと浮くヒスイを睨み付けた。
「ちょっと、ヒスイ。あなた、このお坊ちゃんに連絡したでしょ!?」
《何のことじゃ? わらわにはわからぬのぅ》
そうすっとぼけたヒスイは、両手を後ろで組んで視線を逸らしたまま、口笛なんて吹いてますけど? どこまで古典的で下手な誤魔化し方するんですか!?
「御坊っちゃまの夢枕に立たれたのが、こちらの女性だそうです」
同じ馬車に同乗をした、お坊ちゃんの実家に仕える執事のセバスチャン(仮)さんが、あたし達に事のあらましをお話してくれた。
「折よく、帝都よりバルド皇子殿下宛ての勅命(ちょくめい)がございました。殿下へお伝えついでに、巫女様をお迎えしに参ったのです」
「勅命って?」
「皇帝陛下御自らのご命令でございます。書簡はアランダム家にて厳重にお預かりいたしております」
バルドに皇帝陛下から、直に命令が来るなんて。一体どんな内容なんだろう?
みんなでアランダム子爵家へ向かうことになったのも、バルドが勅命を受けると決めたからなんだけど。ちなみにロゼッタさんは無事で、あたしと同じ馬車に乗ってる。レヤーとダチョウ達は後から運んでもらえるらしい。
でも、セリスは黙って姿を消していた。あたしへの手紙を残して。