異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。



ディニさんは虹と花が好きだった、とロゼッタさんは教えてくれた。


今から10年前は集落のある地区でもわずかながら雨が降っていたし、雨上がりの後に必ず出る虹や咲く白い花が好きだったと。


「そっかぁ……白いお花か。どんなお花だったの?」

「すごく小さくて、たくさん花びらがついてた。草が手のひらみたいな変わった形してた」

「なんだか、シロツメクサみたいだね」


あの集落ではもう花どころか、草が生えるのも難しいだろうな。乾燥しきって日中は日が照りっぱなしの上に、雨が降るのはほとんどないというし。


「また、その花が咲くところが見たい?」


あたしが訊いてみると、ロゼッタさんはしばらくあたしを見てから、遠慮いがちに頷いた。


「ディニのお墓、もう何年も花を供えてやれてない。また、虹が見れれば……きっと、ディニも喜ぶ」


ディニさんのお墓は虹が一番見えやすい丘に作られた、と聞いて。亡くなった人を悼む気持ちは世界が違っても一緒なんだと感じた。


あたしも、だ。月命日には必ずお墓参りをして、お母さんや伯母さんの好きなお花と好物を買って墓前に供えた。


秋人おじさんだけは、失踪による死亡宣告がなされても。お墓に名前が刻まれても。不思議とそこにお参りする気にはなれなかった。


もしかすると、ヒスイがペンダントを通して教えてくれてたのかな? 秋人おじさんが生きてることを。


「……あたしもね、大切な人を亡くしたの。とってもとっても大事な人たちだった」


あたしの口からも、自分の事情を告げる言葉が自然と出てきて。


あたしとロゼッタさんは、初めてお互いの過去や事情を語り合った。
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