異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
と思ったんだけど。
覚悟をしたのに、冷たい感触も衝撃もない。
あれ? と不思議に思って瞑った瞼を開けば、お腹にがっちりと腕が回されてる。あれれ、と戸惑っていると、すぐ後ろから低い声が聞こえた。
「――気をつけろ」
ささやくような、この声は。
「バルド……?」
あたしがその名前を呼べば、彼はグイッとあたしを抱き上げる。えっ!? と、目を瞬かせていると、彼の顔がすぐ間近にあって。心臓が跳ねた。
まるっきり、別人みたいだった。ボサボサで伸び放題だった髪を切って、きちんとスタイリングして。きっと念入りに洗ったであろう肌は、きれいに焼けた小麦色。何より、軍服なのか詰襟の黒い制服を着てる。赤いマントが、風に舞ってバサッと翻る。
その、整った顔だちは今まで見た誰よりも綺麗で、凛々しくて。黄金の瞳は猛禽類のように鋭い。
まるで、全身に稲妻が走ったようだった。彼の本当の姿――ディアン帝国第一皇子の正装を見て、息が止まるほどの苦しみを覚えたのは、どうしてだろう?
なんだか泣きたくなるような切なさも。