異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。



ドキンドキン、と心臓がうるさい。内側から誰かが叩いてるくらいに、激しく鼓動してる。


穏やかな風が吹いて、花と木々を揺らす。むせかえるような花の薫りに包まれているけど。それ以上に、バルドの腕の中にいるという現実に酔いそうだよ。


頬に血が集まって、熱くなってくる。彼の瞳がこんなに澄んでいる色だったのとか、髭がない顎はつるつるだったんだとか。髪の毛はちょっと硬そうだとか。まつ毛が思ったより長いとか。そんなふうに思えるのは、今までになく顔が近づいたせい。


あ、耳は耳たぶが大きくて福耳っぽいだなんて。新たな発見。こんな観察でもしてないと、落ち着かなくて耐えられない。バルドはあたしを抱き上げたまま、何も言わずにジッと見つめてくるんだもん。顔を伏せたくても、彼の広い胸が目に入って毒です。


「ば、バルド……お、おろして。もう大丈夫だから」

「………」


思い切って出した声はかすれてて、震えてると自分でも解る。それなのに、バルドはあたしを下ろしてくれない。


どうして、そんなにあたしを見つめてくるのか。全然意味がわからないよ。


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