異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
誰か、助けて! と言いたいです。バルドは何のつもりであたしをお姫さま抱っこなんてことをしてるの?
やがて、彼はあたしを抱えたまま歩き出す。風が吹いて花びらが散り舞い上がる中で、こんなイケメンにお姫さま抱っこされるなんて。あたしにはハードルが高すぎて……気絶してもいいですか?
バルドが目指したのは、庭園の真ん中にある東屋(あずまや)。
公園なんかによくある、屋根付きのベンチがある休憩所みたいなところだけど。さすがに木ではなく、大理石で造られていてものが違う。
バルドはあたしを長椅子に座らせると、そのまま膝を着いてあたしの左手を右手で取る。手首に填めた腕輪に左手に握っていた黄金色の宝石を宛がうと、何やら難しい呪文の詠唱を始めた。
一字一句日本語で表すには難しい発音だけど、聞いているとすごく綺麗な流れで。思わず目を閉じて聞き入ってた。
流れが、見えてくる。清浄な水のような……サラリとした流れが。これは、なんだろう? 水色の光の束が、あたしの脳裏に浮かぶ。
その流れは、下から上へ。上から下へ。延々と巡ってる。
きれいだ、って触れたくなったけど。なぜか怖さを感じる。後退りして尻込みをしていると、後ろからふわりと暖かさを感じた。
“怖がるな”――と。囁くように励まされて。思い切って手を伸ばす。
そうだ、と。またあの声があたしを後押しして。
あたしは、一本の細い糸を指に絡め引き寄せてみた。
ざあっ、と。波の音が聞こえた気がした。