異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
徐々に濃さを増して嵩を増やす雨雲から、雨粒が降ってくるのは時間の問題だった。
そして、バルドは立ち上がってあたしを見下ろす。
「……水無瀬の巫女は力の発現に、同じ血を持つ者の接触が必要」
囁くようなバルドの低いかすれ声に背中が震えたのは、雨の冷たさからか。それとも違う予感からか。
同じ血を持つ者? それはどういうことだろう? 花の薫りがまつわりついて、酔ったように思考がうまく回らない。軽く痺れたみたいで、あたし……どうしちゃったの?
「バル……ド?」
カツン、と踵を鳴らし彼が再びひざまづく。彼が、どんな顔をしているのか……影になってよく見えないよ。
「翡翠之御上に、雨を降らすまでの力はない」
すると、ヒスイは居間で雨乞いをしてるってこと? 降らせる力がないなら、どうして?
頬をバルドの冷たい指先が滑る。ひんやりとしてるのに、熱を残されたように感じた。
その指が、あたしの顎を掴んで顔を動かなくする。影の中に、黄金色の光を見た瞬間、出るはずだった言葉がバルドの唇に吸い込まれていった。
二度目のキスは、触れるだけだったものと違って。噛みつかれそうで、逃げようとしても圧倒的な力の差で抗えない。
やがて、雷が鳴るほどの激しい雨が降ってきたけど。あたしの中で何かが切れて、そのまま意識が落ちていった。