異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
バルドは濃いグレーのシャツに、黒い革のズボンってずいぶんラフな格好。相変わらず髪はボサボサにしてるけど、なぜかそれだけでドキドキする。
持った羽根ペンで書類のようなものに何かを書き入れると、そばに控えていた男性にそれを渡す。
紺色の制服に白いネクタイ締めた男性は、初めて見る。身長はバルドより低いし華奢だけど、後ろに流したプラチナブロンドを紐でひとつにくくり、蒼い瞳が印象的なイケメンだった。年齢は二十歳くらいかな?
「あ、あの……話って」
もしかしてお仕事の最中?とためらいながらあたしが口を開くと、バルドは人差し指を立てて男性の歩みを止めた。
「ちょうどいい、ヒルト。こいつが例の巫女だ」
「ちょ……!」
ヒルト、と呼ばれた男性にあっさりあたしの正体を明かしたバルドに、あたしはすぐに吠えた。
「ちょっと! あたしは巫女だってことを隠したいって、あれほど」
「ヒルトはオレの侍従長だ。知られねば困るのはおまえだぞ」
バルドはダン、と印章を押してから次の書類を手にする。
「侍従長? バルドの……って!?」
シャキン、と目の前に白刃が輝いた。ヒルトという人が、あたしにレイピアを突きつけたからだ。
「殿下を呼び捨てにするなど、不敬にもほどがありましょう」
その目……マジですね。背中に冷や汗が伝わるのを感じながらも、あたしは彼をキッと見据えた。
「だから、なによ? あたしはこの帝国の国民じゃないし、この世界の人間じゃない。敬いかしずく義務なんかないよ」