異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
訊いた瞬間、なぜかチクリと胸に痛みが走った。それが気になって、胸に手を当てて落ち着かない気分になる。
バルドは追加の書類を閲覧しながら、こちらを見ずにまた何かを羽根ペンで書き込む。ドキドキしながら待ってると、おもむろに彼が口を開いた。
「おまえとオレが、婚約する」
「へ、へえ……あたしとバルドが婚約するんだ……よかっ…………って、えええええっ!?」
婚約!?
コンヤク!
こんやく、ですか!? こんにゃくとか、今夜来るとか、ほんやくじゃなく、マジで婚約の、コンヤク?
「ちょ、は、初耳なんですけど! な、なんでいきなり婚約って話になるの!?」
「おまえが、水無瀬の巫女だからだ」
こちらを見ないまま、バルドは冷静に返してくる。
「翡翠之御上が代役を務めていても、いずれおまえが巫女と言うことは明らかになる。その時、何の立場も無ければ動きにくくなる。皇子の婚約者ならば、皇族の一員に準じた扱いがされる」
「こちらとしては甚だ不本意ではありますが、あなたをお守りするためには致し方無い処遇です」
言葉が足りないバルドの後を受けて、ヒルトが補足する。
「他国が水無瀬の巫女を狙う、というのはあなた様も身をもってご存知でしょう?
皇子殿下の婚約者ならば、曖昧な立場とは違い、他国も手が出しづらくなりますからね」