異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「ヒルト、下がれ」
「……は」
バルドが目線で指示を出せば、ヒルトは他のメイドやロゼッタさんを部屋の外に出す。
「なごむ、大丈夫? むりはダメだよ」
「ん、へ~き。へ~き! あたしは今日も絶好調で元気だから。はっはっは!」
腰に手を当てて高笑いをするのも、空元気過ぎて虚しくなるけど。仕方ないじゃん。どうやってこの嫌な気持ちを誤魔化せばいいのかわかんないんだから。
ロゼッタさんは心配げな目を向けたまま、渋々ドアを開いて部屋から出ていく。何かをあった時は使え、と短剣を渡してくれようとしたけど。あたしは大丈夫と断った。
2人きりになり、部屋の中に静けさが満ちる。
バルドが書類を捲る音だけがして、あたしは所在なさげに立ってるしかない。
彼は何のつもりでみんなを部屋から出したんだろう? と思いつつ、あたしもいる意味ないじゃんと結論づける。
だって、皇子であるバルドと異世界の住民であるあたしが婚約だなんて、正気の沙汰とは思えない。偽だとしても、周りから大反対を受けるに決まってる。
だから、そんなの話さなくったって結論は出てる。“無謀”だとか“冗談”だとか。
だから、これ以上話す必要はないと思ったあたしは、バルドにひと言だけ断ろうと口を開いた。