異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。



「あ、あの。婚約はちゃんとそれなりのお嬢様とするんだよね? 話はそれだけなら、あたしはもう行くね」

「逃げるのか」


くるりと背を向けたあたしに、バルドから感情のない声がかけられた。


「に、逃げてなんかない」

「オレには、何もかもから逃げているようにしか見えないが」


グッ、とドレスの脇を握りしめて勢いよく振り向くと、バルドをキッと睨み付けた。


「何が、逃げてるよ。あたしはいつも一生懸命やってきた。いい加減な気持ちじゃ行動してない!」

「話を最後まで聞かずに行ってしまうことの、どこが一生懸命だ?」

「……それは」


たしかに、あたしはバルドの話をちゃんと聞いてない。だけど、それは聞いても無駄だと思ったから。


「だって、誰が聞いても無謀だし、バカらしいと思うでしょう。あたしとあなたが婚約だなんて。悪い冗談だとしか思えない」

「それを決めるのは周りではなく、オレ自身だ」


バルドはようやく書類の束を机に置くと、こちらを向いた。その鋭い眼差しに射抜かれた途端、心臓が狂ったように鼓動を速める。頬に血が昇って落ち着かない。


もじもじとスカートを掴んだり離したりしながら、バルドの言葉を反芻して理解しようとしたけど。どういうつもりで言ったんだろう?


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