異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「だって……あなただって……す、好きなひとくらいいるでしょう」
どうして、だろう。
よりによって、口をついて出たのがこんな言葉だなんて。
これじゃまるで……あたしがバルドを――。
それこそ、あり得ない。
あり得ないというより、あっちゃいけない!
それなのに……。
バルドは椅子から立ち上がると、背もたれに手を当てて窓の外を眺めた。
「ああ」
――と、短い返事だけが返ってきた。
もともと言葉が多い人じゃないけど、この時の言葉の短さは、それがどれだけ大切で真剣な想いなのか、を嫌でも知らしめてきた。
バルドの顔は、微妙な角度で見えない。けど……あたしには解ってしまった。
遠くを見ているであろう彼が、どれだけその想い人を想って見ているのか。深い愛で想い続けているのかが。
胸が、張り裂けそうだったのは……どうしてだろう?
あたしにはあり得ない、あっちゃいけないんだ。
知りたくもなかった。知りたくなかった。こんな……苦しみなんて。
きっと、あたしの手のひらは血色を失って白くなってる。それくらい力を入れて、ドレスを握りしめてた。