異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「バルドが……な、泣かないから」
なんて、傲慢なセリフだろう。彼の気持ちなんて、彼にしかわからないのに。
だけど……
「バルド……ちゃんと、アイカさんに言ってあげたの? す、好きだとか……あ、愛してるとか。他人なら……ちゃんと言葉にしないと伝わらないよ」
あたしはギュッとスカートを両手で握りしめながら、バルドを見上げて彼に伝えたい言葉を紡ぐ。
自分でも、バカだなあって思う。もう結婚して人妻になったひとを相手にしろ、と煽るような真似をするなんて。
普通なら、あきらめろと言うのが常識だと思う。
でも、でも……耐えられなかったんだ。
あんなにせつなげな、悲しい瞳をバルドがするなんて。
彼は、誇り高い王者の瞳が似合う。猛禽類のような、穢れを知らない黄金の瞳で。
その瞳が、曇るなんて見たくない。
「バルドは、いつも言葉が足りないよ。だから、アイカさんも不安で仕方なかったのかもしれない。今からだって間に合うかもしれないじゃない。バルドこそ、逃げたりしないで。簡単にあきらめないでよ!」
もう、めちゃくちゃだった。涙をぼろぼろこぼしながら、彼の胸を叩く。諦めないでよ、自分が幸せになることを考えて! と繰り返すあたしに、バルドはフッと笑った。
「……そうだな」