異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「……そうか」
あたしはより頭ひとつ以上背が高いバルドは、あたしを見下ろしていたけど。涙を拭ってた指先が頬を滑り、なぜか唇に触れる。
彼のもうひとつの手が、あたしの腰に回ってグイッと体が引き寄せられる。意味がわからなくて、瞳を瞬きながら彼を見上げた。
バルドの黄金の瞳に、仄かな何かが点った――そう感じたのは気のせい?
「おまえが偽りの関係を望むならば、それに応じてやろう」
「……バルド?」
不穏なものを感じたけど、まさかと思う。だって、彼はアイカさんが好きなんだから……と。妙に安心してた。
だけど。
バルドの節くれだった指が唇を滑り、そのまま後ろ頭に回ると。動けないように固定され――まさか、と思ったのに。
バルドの唇が、あたしのそれに一度軽く触れたあと、二度目は深い角度で重なった。
「……!」
なんで……
どうして!?
どうして、バルドが、あたしにキスをするの?
「……っ!」
やめてほしくて両手で彼を離そうとしても、腕ががっしりと絡んで密着した体はびくともしない。
どれだけの時間、彼に弄ばれたかわからない。頭が真っ白になって膝から力が抜けたあたしを、バルドの腕が抱き留める。