異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「駄目だ」
その日の夜遅く。やっとバルドを捕まえて事情を話したところで、開口一番に否定されましたよ。
翡翠宮に帰ってからのバルドは毎日帝都に通って、弟さんと政務に関わっているらしい。それ以外にも、自分に割り当てられたオレンジ州の政務もこの宮で執ってる。となれば当然多忙を極めていて、こうして顔を合わせるのは10日ぶりだったりするんだけど。
お忍びでミッツ村を訪れて話を聞きたい、と直訴するためにバルドには芹菜や秋人おじさんの話をした。
今までこの世界に来てからはロゼッタさん以外に初めて話すのに。バルドはあたしの意を汲むこともなく、ただすっぱりと切り捨てた。
「な、何でよ! そりゃああたしは今……偽物とはいえあなたの婚約者だけど。まだ公表されてないし、顔だって知られてないでしょ。今日だってヒスイがあたしの代わりに帝都の近くに顔出ししたんなら構わないじゃない。警備ならロゼッタさんがいれば大丈夫。自分の身は自分で守るし……そっちの手を煩わすことはしないから」
「そんな思いつきでものを言う浅慮さでは、到底信用などできない。まるっきり3歳児レベルの言い訳だ」
分厚い書類を捲りながら、バルドは鼻で笑ったようにあたしの軽はずみさを揶揄した。
「わ、悪かったわね。3歳児レベルで! し、仕方ないでしょ。あたしが出来ることなんてたかが知れてるんだから」
たしかに自分でもよく考えず、反射的に言い返す自覚はある。けど、だからといって3歳児はないでしょ!
あたしにとってとてもとても大切な人たちに関わることかもしれないのに。見過ごせるわけがない。