異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。



バルドの仕事部屋である執務室はあたしとバルドと、それ以外に侍従長のヒルトさんがいる。彼は完全に我関せずを貫いていて、バルドのサポートに徹してた。


静かな部屋に、バルドが紙を捲る音とペンで書き入れる音だけが聞こえる。今は深夜の1時近くなのに、バルドの机に重なる書類の厚みはまったく減らない。


こんなに忙しくて疲れてる人を、これ以上疲れさせて煩わせちゃいけない。朝は4時起きで日の出前に帝都へ向かってるらしいし、とりあえずわがままは抑えようと床に目を落とす。


(そうだ……バルドは無駄なことは言わない。たぶん、あたしが無謀なことを見抜いてるから。一方的に反対してるわけじゃなくて……ちゃんとした理由があるんだよね)


脊髄反射で言い返したりしたら、また二の舞になる。あたしはひとまず執務室を出て、厨房に向かう。


(えっと……たしかここに……あった)


戸棚の隅に置かれたそれを手に取ると、鍋に水を満たして中身をあける。ガスの竈にかけた鍋をおたまでかき混ぜながら、焦がさないよう気をつけて暖めた。


「よし、できた!」


鍋ごとトレイに載せて、バルドの執務室に戻った。


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