異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「抱き枕がわりにはちょうどいいな」
「は、はぁ? あたしが抱き枕?」
「不服か?」
「い、いや別に……こ、こんなので役に立つなら……いくらでもどうぞ」
そっと見上げると、心なしかバルドの頬は以前より引き締まって鋭さが増してる。きっと休憩もろくに取れなくて、痩せるほど多忙なのは想像に難くない。
たぶん芹菜のことも秋人おじさんのことも、あたしが頼むには彼はあまりに忙しすぎて余裕がないんだろうな。本物の恋人だとか婚約者でもないのに、図々しい願いはできない。
忙しくしてるバルドの役に立てないのなら、せめて邪魔をしたくない。あたしに手伝えることって無いのかな?
「ね、ねえ……バルド、訊いていい? 今は何の仕事をしてるの?」
「……なぜそんなことを訊く?」
やっぱり、怪訝そうに訊き返された。そりゃあたしが知る必要なんてこれっぽっちもないよね。いずれバルドのもとから去る人間なんだから。
でも、だからといって。何もかもを知らないふりをしたくない。
たいせつなひとが大変なら、それを和らげたいって思うはいいよね?
(え……大切なひとって……あたし)
自分の頭に思い浮かんだ感情を押し込めながら、バルドの顔を見上げた。顎にはうっすらとお髭さんがはえてる。剃る暇もないんだな、となんとなく指先でつつきたいのを我慢しながら、適当に理由を口にした。
「えっと……ただ、知りたいだけじゃだめ?」