異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「……戸籍を作ってる」
ボソッ、と落ちた呟きに、は? とバルドの黄金の瞳を見返した。
「戸籍? 戸籍って……えっと、入籍とかするあの戸籍?」
「入籍とは何か知らないが、国全体の仕組みとして必要な制度だ。誰がどこに住んでるのか、どんな人間がどれだけいるのか、をきちんと調べあげて国の隅々に至るまではっきりとさせねばならない。今まで曖昧にしか把握しなかった地方では特にな」
「地方を調べる……あっ!」
そういえば、とあたしは1ヶ月前までの旅を思い出した。バルドがあたしに調査をさせた資料。彼はそれを使って地方ごとにまとめていた。首長の話も統合して、なるべく正確な資料を作ってたんだっけ。
「もしかして、あたしがやってたのは人口調査みたいなものだったの?」
「ああ」
バルドはそれだけ返すと、どうしてかあたしの背中に回した腕に力を込める。
「まだこの国は若い。建国して百年など、近隣の古い国からすれば若造。国全体を支える仕組み作りが必要だからな。税制にしろ、曖昧でいい加減な部分が多い。新しい律令(法律)も時代に即した内容に制定し直さねばならない」
ギュッ、と息苦しいほど抱きしめられて。彼の香りとぬくもりに、心臓がドキドキと苦しくなってきた。
「そ……そっかぁ。た、大変なんだね。あたしが手伝えるなんて無理かな」
熱くなる頬を誤魔化したくて、急いで顔をあげようとしたけど。抱き潰されて難しい。