異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
第12関門~あたしは、知ってる。
朝早い鍛練場に、金属がぶつかる音が響く。
右足を一歩前に踏み出すと、手にした剣を同時に繰り出した。
「はっ!」
自分では渾身の力を込めたつもりだけど、その一撃は容易に師の刃に弾かれる。
「まだまだ速さが足りませんな。ただ力任せに振り回せばいいという訳ではありませんぞ」
「わ……わかってます」
打ち込み30回目となればさすがに疲れる。この1ヶ月間は早朝と深夜という約束で、もと騎士という男性に武芸を教わってるんだけど。ぜんぜん上達する気配がない……。
日中合間を見て基礎訓練や体力作りは怠ってないし、武術についても勉強してるんだけど。なんかイマイチ身に付いてないような。
訓練時はさすがにヒラヒラのドレスが邪魔だから、男性用の服を着てる。やっぱりズボンの方が動きやすくて好きだわ。
それまで、という声が掛かったのは、やっと一撃当ててから。ヘロヘロになりながら、「ありがとうございました!」と一礼をして師匠を見送った。
《朝からようやるのう》
「うわっ!?」
やっと気が緩んだ瞬間、ヒスイのアップは心臓に悪い。ドキドキする胸を押さえながら、キッと彼女を見た。
「いつも言ってるけど、いきなり出てこないでよ。びっくりするでしょう」
《別によかろう。わらわがどこにいようとわらわの勝手じゃ》
この天の邪鬼! と内心ヒスイを罵りながら、現実は彼女をスルーして身支度を始めた。