異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。





穴があったら入りたい……というかむしろ、自分から掘って埋まりたいです。


起床から訓練まで少なくとも十人はくだらない人と関わってた。皆が皆、なま暖かい目を向けてきたのはそのせいですか……。


首が詰まる長袖を着たあたしは、バルドを心の中でセクハラエロオヤジ認定した。

所構わずキスするし、油断したらキスマーク残すし。何を考えてんのよ、あの人は!


あたしは偽物の婚約者に過ぎないのに、そこまで演技する必要なんかないっての。


『あれ、なごむおはよー』


庭で忙しそうなミミが挨拶してくれたから、心持ち伏し目がちに返した。それを照れと取ったのか、ミミはにひひと笑って顔を寄せてきた。


『聞いたよ~遂に皇子様とヤッたんだって?』

『やっ……!?』


ぼわっと頬が熱くなるのを感じた。それがますます誤解を生むことになったようで、ニカッと笑われた。


『いいじゃん、いいじゃん! なごむが皇子様とまとまってくれたらアタシも安心だわ~』


バンバン、と背中を叩いてくるミミのあけすけさは、とても年下とは思えない。


『ち、違う……あたしは』

『照れるな、照れるな! 皇子様がやっと大切な人を見つけられて、みんなホッとしてるんだ。10年前のアイカさんの件で……だいぶ人間不信気味になってたからね』

『人間不信?』

『あ、いっけない!』


ミミは慌ててかごを持ち直すと、一冊の小さな本をあたしに押し付けてきた。


『それ、読みやすい方だから。読んでみなよ、じゃね!』


厨房からサラさんに怒鳴られたミミは、急いでそちらに駆けていった。


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