異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。




「あなたも気付いたでしょ、その壁にあるものを」


ライムさんが視線で示した先にあるのは、壁にかけられたひとつの押し花。額縁に入れられて飾られたものは、ずいぶん色褪せてボロボロになってる。


だけど……


ドクン、とあたしの鼓動が強く脈打つ。

四つ葉のクローバーとムラサキツユクサとシロツメクサ……夏に咲く花たち。


あれは……あの押し花は。





“和、なにしてんだい?”

“ん、おじちゃまにお守りを作るために摘んでるの”

“お守り?”

“そ~! おじちゃま、コワい夢を見るんでしょ。なごむが悪い夢をやっつけるお守り作ってあげる! クローバーって、幸せになれるんだって。だから、もう大丈夫だよ”


“なごむ……ありがとうな”


あの時、おじさんはぐしゃぐしゃになるまであたしの頭を撫でてくれて。嬉しくて張り切って作った……あたしが生まれて初めて作った押し花をつかった……お守り。


だけど、どうしてだろう。


今思い返すと、秋人おじさんが寂しいような。哀しげな笑みを浮かべていたなんて。


幼子には、笑いの違いなんてわからない。あたしはただ、秋人おじさんの笑ったことだけを記憶してた。


そして、目の前にあるクローバーは……。


記憶にあるよりもはるかに色も褪せて、ボロボロになりかろうじて形がわかる程度。どうしてあたしが作ったのか解ったのかと言えば。


あたしとおじさんのサインが、隅っこに残ってたからだった。


< 222 / 877 >

この作品をシェア

pagetop