異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「あなたも気付いたでしょ、その壁にあるものを」
ライムさんが視線で示した先にあるのは、壁にかけられたひとつの押し花。額縁に入れられて飾られたものは、ずいぶん色褪せてボロボロになってる。
だけど……
ドクン、とあたしの鼓動が強く脈打つ。
四つ葉のクローバーとムラサキツユクサとシロツメクサ……夏に咲く花たち。
あれは……あの押し花は。
“和、なにしてんだい?”
“ん、おじちゃまにお守りを作るために摘んでるの”
“お守り?”
“そ~! おじちゃま、コワい夢を見るんでしょ。なごむが悪い夢をやっつけるお守り作ってあげる! クローバーって、幸せになれるんだって。だから、もう大丈夫だよ”
“なごむ……ありがとうな”
あの時、おじさんはぐしゃぐしゃになるまであたしの頭を撫でてくれて。嬉しくて張り切って作った……あたしが生まれて初めて作った押し花をつかった……お守り。
だけど、どうしてだろう。
今思い返すと、秋人おじさんが寂しいような。哀しげな笑みを浮かべていたなんて。
幼子には、笑いの違いなんてわからない。あたしはただ、秋人おじさんの笑ったことだけを記憶してた。
そして、目の前にあるクローバーは……。
記憶にあるよりもはるかに色も褪せて、ボロボロになりかろうじて形がわかる程度。どうしてあたしが作ったのか解ったのかと言えば。
あたしとおじさんのサインが、隅っこに残ってたからだった。