異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
バルドは自分の足で行った何年もの調査の旅の後に休む間もなく、政務と公務に忙殺されてる。それでかなりの疲労困憊のはずなのに、あたしのわがままのせいで無理に時間を作らせて。帰ったらまた執務地獄が待っている。
昨夜だって眠りに就いたのは2時近い深夜だった。なら、一晩くらいゆっくり休ませてあげたい。
お忍びゆえか、バルドは侍従長のヒルトさん以外連れてきていない。ここなら、ほんの一時でも休息が取れるよね。
「わ、わかりました。ご好意に甘えて……一晩お世話になります」
ペコン、と頭を下げたあたしは、ただしと付け足した。
「夕食の支度はあたしに任せてください。ライムさんとバルドはゆっくり休んでて」
そう言って立ち上がったあたしは、チラッとロゼッタさんを見ると彼女も察して後から着いてきてくれる。
「大丈夫、和はわたしが守るから心配いらない」
彼女は使いなれた斧を腰にさし、木でできたバケツをひとつ持ってくれる。
「ありがとう……楽しみだわ」
ライムおばあちゃんの喜ぶ顔に、本当にお母さんのことを知ってるんだなあって。ちょっとだけ嬉しくなる。
(お母さんはこの村で生まれて育ったんだ……)
裏口から出るとスリッパみたいな簡易な靴があって、遠慮なく借りておく。井戸の場所は把握済みだから、そこまで歩くことにしたけど。なるべくゆっくり進んで、村の景色をあれこれ眺めた。