異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
『あのおばあちゃんはね……これがちょっと……なのさ』
女性の一人が自分の頭を指さして、コツコツと軽くたたく。それはつまり……ライムおばあちゃんが、ボケてるとか。その他のよくない意味だってこと?
『えっ……でも、しっかりと受け答えされてましたよ? 昔の話とかもずいぶんちゃんと憶えてらして』
あたしがそう説明すると、中年女性は顔を見合わせて肩を竦めた。
『そりゃ、初めて会えばそう見えても仕方ないさ。けど、そうでもないんだよ。あのばあちゃんの中じゃ今と昔がごっちゃになってるんだから』
『今と……昔?』
どういうこと? と首を傾げたあたしに、老年期に差し掛かった女性が教えてくれた。
『おかしなもんだよ。“あたしは神様に会ったことがある”ってさ……誰も信じない繰り事を言い続けてるんだ。だから、誰も彼も離れて結婚もできずに、独りぼっちさ』
『神様……?』
『ああ、あたしが生まれる前からずっとらしいよ。おかしなばあちゃんさ。異界から降り立った神がこの地にやって来たなんて……誰が信じるもんかね』
異界から……? まさか! あたしは急いでその話題に飛び付いた。
『あの……その神様の名前は』
『ああ、あたしが聞いたのは一度きりだったけど……たしか……あ、あ……アキ何とかだったかな。亡くなったあたしのおばあちゃんの話からすれば、ライムばあちゃんが神様に会ったのは100年以上前らしいけどね』