異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「え、ってゆーか。あたしをからかってすぐ、こっちに来たの?」
ツッコミどころ満載な発言はともかく、ヒスイの言葉には引っ掛かる点があった。
《そうじゃ。わらわは鉱物を護る御上ぞ。それに関わる場所ならば、どこにでも行ける》
川なら川底に石があるからか……と納得できたような、できないような。
「そ、それよりさ。信仰が消えたって、どういうこと?」
《言葉のままじゃ。この地には何も信仰の対象がない。すがすがしいほどにな》
「それ、おかしい。わたしの集落でも土と風の精霊祀ってるよ。帝国、決まった宗教ないから。みんないろんなもの信じてる。暮らし厳しいなら、何かにすがりたくなるのが人間。だから、それはおかしい」
どうやらロゼッタさんもヒスイが見えてるらしく、珍しく口を挟んできた。彼女は南方の厳しい環境で育ってきたから、その経験からの言葉は重みが違う。
《そうじゃ。意のままにならぬ時、何かにすがりたくなるのが人というものじゃ。じゃが、この地では“声”が聴こえぬ。祈りも、願いも。祈りはせずとも願うが人間じゃが、この地の人間は“願い”を抱かぬ。不自然なまでにな》