異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
……眠れない。
今日は一度にいろんなことがわかりすぎて、頭が興奮しているせいかなかなか眠りに落ちてくれなかった。
(ちょっと頭でも冷やそ)
深夜だから、いちいちロゼッタさんを起こすのもしのびない。薄い上着だけを羽織り、台所の裏口からそっと外に抜け出した。
ライムおばあちゃんの家は渓谷に近くて、見晴らしがいい。満天の星空を見上げながら、林の傍らに腰を下ろした。
こんな時は、あの日の約束を思い出す。
「秋人……おじさん。120年前にここに来たって……嘘だよね? みんなが変な術でおかしいだけだよね?」
涙で視界がにじんできたから、指でそれをぬぐう。ジャリ、と後ろから庭に敷いた砂利を踏む音がして、振り向いてすぐに頭が真っ白になった。
赤と黒のタータンチェックの半袖シャツに、黒に近いダメージジーンズ。某有名メーカーのスニーカー。少しくせのある茶髪……はにかむような笑顔。
まさか、と目を疑った。これは夢?あまりに何度も何度も夢見たから、きっと寝ぼけてるんだ。そう思おうとした。
でも……。
幻や夢でないことを確かめたくて、こわごわとその名前を呼んでみた。
「秋人……おじさん?」
「そうだよ、和。久しぶりだね」
変わらない笑顔で言われた瞬間――あたしは弾けるように駆け出し、その胸に飛び込んでいった。