異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
黒い風が、吹いた。
いきなり突き飛ばされたあたしは、体勢を立て直すので精一杯。けど、殺気を感じて腰に帯びていた短剣を鞘から抜いた。
足を踏ん張って秋人おじさんを助けようと前を向いて――既に戦いが始まっていることを知る。
金属同士が擦れあう不愉快な音が夜空に響く。黒い疾風の正体はバルドで――対するは。
紅い髪の……ハルト!?
間違いない。今まで秋人おじさんがいた場所で、彼は剣を振るってる。秋人おじさんそのものの、赤いシャツとジーパンのまま。
やっぱり……ついさっき触れた指が見覚えがあるものだと思ったら、ハルトのものだったなんて。
たしかに、剣を握るゆえのタコや節くれだった皮の厚い硬い手は、秋人おじさんのものじゃあり得なかった。
きっと、何らかの術で秋人おじさんになりすましていたんだと思うけど。あたしには不思議と何の怒りも湧いてこない。
あの表情や話し方……いくら秋人おじさんを知ってたとしても、完全に真似をするのは無理だと思う。あたしにとってあれは、秋人おじさんそのものだった。
ハルトは、あたしに秋人おじさんからのメッセンジャーになってくれたのかもしれない。