異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。



「あんた……和と婚約したのは本気か?」


ロゼッタさんが作ったたんこぶを押さえながら、ハルトはバルドを見る。その顔は複雑なものが渦巻いていて、何を考えているか窺い知れない。


「そうだが? アンタに何の関係がある」

「あるだろうが! 俺とあんたは……」


ハルトは何かを言いかけ、ハッとした顔になって口をつぐむ。ギリギリと歯を食いしばる音がして、「くそっ!」と髪を乱暴にかきむしった。


「国を捨てたおまえに、何かを言う資格があるのか?」

「……ねえよ!だがなあ、和を……よりによって、なんであんたなんだ」


座り込んだハルトは、苦しげな表情を浮かべる。それは最後に見せた秋人おじさんにとてもよく似ていて、胸がズキッと痛んだ。


「ハルト……どうして、来てくれたの? あなたはセイレム王国の貴族なんでしょう。なら、どうしてわざわざあたしに伝えに来てくれたの? 秋人おじさんの言葉を」


そうだ。あたしにとって秋人おじさんのメッセージは嬉しいし励ましになるけど、ハルトにとっては何の利にもならない他人事のはず。むしろ、敵対する異国に来ることで、その身を危険にさらすはめになる。なのに、どうしてわざわざ来てくれたんだろう?


< 252 / 877 >

この作品をシェア

pagetop