異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「お~い、そこ。イチャイチャっぷりが独身者の目には毒なんだけど」
ハルトが髪を掻きながら、ジト目でこちらを見てるけど。どこをどう見たら、あたしとバルドがいちゃついてるように見えるの?
「イチャイチャなんてしてないでしょ!」
「……無自覚かよ、ったく。こりゃセリスが泣くの決定かもしれねえな」
呆れた声で責められた気がして、ムカッときたあたしはべ~っ! とハルトに舌を出してやった。
「意味わかんないこと言わないでよ。第一、バルドには好きな人がいるんだから」
「……本命がいるのにその態度はおかしいだろ。おまえを弄んでるんじゃねえ?」
ハルトの指摘に、グッと胸が詰まる苦しさを感じた。
バルドには、本命がいる。あたしはただの偽物……偽りの婚約者。それはわかってる。わかってて、承諾したんだから。悲しいだとか思っちゃいけないんだ。
「そ……そんなの、あなたに関係ないでしょ。それに……あたしはちゃんと、わかってる。全部わかってるから……何も、期待なんてしてないから」
仮にあたしとバルドが本物の婚約者となったとしても、あたしは日本へ帰るんだから未来はない。何の約束もできない――あたしとバルドは、そんな生産性のない関係で成り立っているんだ。